「木を見て森も見る」歯科診療の実践者
太田宅哉氏と私の出会いは2010年に遡る。
私が東京の某病院で月に一度実施しているIgA腎症専門外来を氏が訪問されたのがきっかけである。氏の来訪の理由は「IgA腎症患者の口腔の状態が知りたい」ということであった。
IgA腎症は口腔の奥にある扁桃腺(へんとうせん)が慢性的な炎症を起こし。それが原因で発症する腎臓病と考えられている。
扁桃腺は口腔の門番のような働きをするので「口腔に何か問題があるのではないか?」ということだが、そのような発想は腎臓だけを診ている内科医には簡単には思いつかないものである。
20人ほどのIgA腎症の患者さんの口腔を私と一緒に氏に診ていただいた結果、驚くべきことに全てのIgA腎症患者が口呼吸の習慣を持つことが判明した。それ以来、私はIgA腎症患者の口呼吸の是正を日常診療の中に取り組み、実際、治療成績の向上に役立っている。
食物の入り口であり、また空気の通り道でもある口腔は当然のことながら全身に様々な影響を及ぼす。しかし、口腔の重要さを認識している医師は少なく、一方、全身との関係を念頭に入れながら歯科治療に取り組む歯科医も決して多くはない。
太田氏はまさに全身との関係に注目しながら口腔の診療を実践する「木を見て森も見る」歯科医師である。太田氏のような歯科医療の取り組みが全国に広まることが国民の健康の増進につながり、今後、超高齢化を迎える我が国にとって一筋の光明となるだろう。
堀田氏について
医師 堀田 修
ほった おさむ
IgA腎症・根治治療ネットワーク代表
日本腎臓学会学術評議員
前仙台社会保険病院 腎センター長
著作
腎臓病を治す本
(マキノ出版)
IgA腎症の病態と扁摘パルス療法
(メディカル・サイセンス・インターナショナル)
病気が治る鼻うがい健康法
(角川マガジンズ)
慢性免疫病の根本治療に挑む
(悠飛社)